眠れない夜のための羊毛と閑話

悪徳羊毛作家・フェルト侍のブログです。大っぴらにはできない話を小声で叫ぶためにwebに掘った暗い穴。麦が生えなきゃいいんですが。

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「私とフェルト、どっちが大事?」~後篇

~前回までのあらすじ~

手先は器用でも、恋愛に関しては不器用なフェルト侍。
付き合っていた人にも、とうとう別れ話を切り出され…?

(「私とフェルト、どっちが大事?」前篇コチラ→★)

この話はフィクションであり、実在の人物・団体等には
一部しか関係しません。


・・・


11月の良く晴れた朝、
狭いアパートの一室で、小さな窓を背に座り、Pさんは話し始めました。

「私が初生雛鑑別師の資格を持ってること、知ってるよね…
 師匠に当たる人が、いまスウェーデンに住んでるんだ…
 手伝ってほしいって言われてる…」

「…そうなんだ…」

Pさんの細いあごが逆光に照らされています。
少し震えているように見えます。




「あのさPさん…」

「何?」

「…あの、普通こういうシチュエーションだと、
 パリとか、ニューヨークとかじゃないの?留学とかだよね?
 なんでヒヨコの鑑定士でスェーデンなの?」

「だってそれじゃ当たり前すぎて面白くないじゃん。
 インパクトは大切でしょ、何事にも。」

…何も別れ話でインパクトやウケを狙わなくても。

戸惑いを覚えつつも、それが大阪市出身のPさんの魂の奥底に眠る
関西人の哀しいサガなのかとも思います。




それとも、
さもネタのように話を振るのは、Pさんの精一杯の虚勢なのでしょうか。




最初に会った時から、目に強い意志を感じる人でした。
自分より年下なのに、どうしても「さん」付で呼んでしまう凛とした気迫のようなものが、
この人の裡には感じられました。




「そうだったんだ…
 …Pさんなら、やっていけるよ、頑張って」

やっとのことでそう声を絞り出すと、
Pさんは少し黙って、窓の外に目をやりました。

「あなたならそういうと思ってた…」

どこか遠くの雑木林で、ヒヨドリが啼き散らしています。
何かを必死で追い払っているような、切ない鳴き声。




「あなたが仕事そっちのけで、羊毛に夢中になってるのを見て、
 私も今しかできないことをやろうって…そう思ったんだよ。

 …決意させてくれたあなたには、お礼を言わなきゃいけないかな?」

にっこりと笑顔を向けて立ち上がると、机の上に手を伸ばしました。

カチャリ。

「部屋の鍵、置いていくね。」

「あ、うん…」




「じゃあガンバロウね…お互い。」

玄関に向かって歩き出すPさんを後ろから送ろうとすると、

「最後に聞いていい?」
Pさんは前を向いたまま自分に尋ねます。




「羊毛フェルトで、人を見守りたいってよく言ってたよね…
 
 人を慰めたり、応援したりできるような作品を作りたいって…

 …それって、作品の中だけの事なの・・・?」




一瞬、呼吸ができなくなった気がしました。

酸素を求めて浮かぶ魚のように、口だけが開いたまま固まっています。



「…じゃ、行くね」

答えを待たずに、突然の来訪者は、来た時と同様に突然去っていきました。

振り返りもしませんでした。




Pさんは泣いていたのでしょうか。

いいえ、あの人が泣いたりなんかしません。

いつだったか、自分がフェルトを刺していると横から針を奪い、
私もやってみると羊毛を刺し始めた途端、思い切り指を刺したことがありました。

しかも針が折れて、欠片が皮膚の中に入ってしまって
自分が必死で毛抜きで抜いてあげたのですが

その間も涙ひとつ見せなかった、気丈な人なんです。

今回の事だって、泣くようなことでもなんでもないに決まっているんです。




自分はただぼんやりと部屋の真ん中に突っ立ていました。

机の上には、置いて行かれた部屋の鍵。
キーホルダー代わりに、小鳥のストラップが付いています。

去年の誕生日に、フェルトを初めて間もないころ
プレゼントした小さな青い鳥。




手に取ると、羽根の先がずいぶんボロボロになっていました。

「…いつの間にか、こんなに傷んでたんだ…」

誰に言うともなく口にして、作業台に座ります。

羽根の先と、嘴も少し直してやろう。




また静寂を取り戻した小さな部屋で、
早くも午後の色に変わり始めた日差しを受けながら

自分はゆっくりとニードルを動かし始めました。

019_convert_20111129021441.jpg

                 <つづく>

またこんなモノを書いて…
苦笑クリックお願いします
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  1. 2011/11/29(火) 00:37:19|
  2. フィクションです
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